神様に会いにいく

【連載エッセイ】 Vol.7 イザナミノミコト (熊野神社)


前回までの連載で、アマテラス・ツクヨミ・スサノオの三姉弟に会えたので、次は彼らの母であるイザナミノミコトに会いたくなった。

日本神話の中で、イザナミほど壮絶な人生、いや神生を歩んだ神はいない。イザナミはイザナギと夫婦になって多くの神々を産んだが、火の神を産んだときに陰部に火傷を負って苦しんで死んでしまったことはVol.5で紹介した。

そのとき、イザナミは苦しみのあまり尿や便や吐瀉物を漏らすのだけど、なんと、その排泄物からも次々と神々を誕生させる。なんという執念。いや、それだけイザナミの力が大きいということだろうか。

さらに死んだ後は、黄泉の国へ会いに来たイザナギに、腐敗した自分の姿を見られてしまう。怒ったイザナミは、イザナギに復讐するために執念深く追いかける・・・

なんだ、これ・・・。

最初にこの物語を知ったとき、わたしは呆然とした。あそこを大火傷して、糞尿まみれで苦しんで、死んでからも腐敗した体で登場する・・・? 日本の島々や多くの主要な神を産むという、偉大な働きをしたイザナミに、こんな仕打ちをするなんて!

だけど、悲劇に見舞われても泣き寝入りせず、なりふりかまわず、神を産み続け、イザナギを追いかけるイザナミの生き様に想いを馳せると、わたしの中に言葉にならない気持ちが湧いてくる。イザナミの生き様は、わたしの心を負の方向にも正の方向にも揺さぶってくる。生きること、死ぬこととはなにかを考えさせられる。そして、考えれば考えるほど、イザナミノミコトは、これ以上ないほど美しく気高い神様だと思えてくる。

イザナミノミコトを祀っている京都の神社のうちの一社が「熊野神社」だ。熊野というのは紀伊半島南端部を表す地名で、イザナミの亡骸が埋められたと伝えられている場所のひとつである。熊野の自然神信仰と一体化してイザナミが熊野神社の祭神の一柱となっている。総本社は熊野の地にあり、811年に紀州熊野大神を勧請して建てたのが、この聖護院にある熊野神社である。

・・・と説明している間に、到着!

前置きが随分長くなってしまったけれど、わたしは、かつて、この熊野神社の前をしょっちゅう通っていた。ときどき中を散歩したりもしていた。なぜなら、ここは京大病院のすぐ南。そのときわたしは病院の中の研究室に毎日通い、朝から晩まで実験をしていたからだ。

研究室にこもっていると、どんどん視野が狭くなる。うまく結果が出ないことが続くと、将来が不安になったり、他の研究者の業績がうらやましくなったりする。落ち込んで、鬱々としてくる。

そんなとき、ちょっと外に散歩に出て、熊野神社の鳥居を見上げたり、こんもりした木々を眺めたりしていると、気持ちがいつも落ち着いた。車がびゅんびゅん走る交差点の一角なのに、この中だけは違う時間が流れていた。当時は熊野神社の由緒も歴史も知らなかったけれど、ただ、単純に心地よくて、好きな場所だから訪れていた。

わたしは知らないうちにもう、イザナミノミコトと会っていたのだ。イザナミノミコトに見られていたのだ。

鳥居をくぐると、すぐに立派な拝殿がある。熊野神社にはイザナミノミコトだけでなく、イザナギノミコト、アマテラス大神、そして速玉男尊と事解男神が祀られている。最後の二柱はイザナミとイザナギが離縁するときに離縁の約束を固めるために吐いた唾と言葉からそれぞれ生まれた神様だそうで。ううむ。みなさん、ご一緒でよろしいんでしょうか。

でも、離縁したといっても、イザナギとイザナミは憎みあっていたわけではなく、死で引き離されただけだから、一緒に祀られていると、よかったなあという気持ちになる。

お参りした後は、狛犬さんに注目です。

右の狛犬さんは、めっちゃ、いい笑顔。

右狛犬「いいねえ! 君はすごいよ! 天才だよ!」

左の狛犬さんは、きりっとイケメン。カメラ目線。

左狛犬「心配いらないさ。君ならできるよ」

それぞれのキャラで励ましてもらえます。

熊野神社のシンボルの八咫烏(やたがらす)が、あちこちにいます。

入口。

拝殿の提灯。

屋根のところにも。

絵馬も八咫烏。
八咫烏といえば、サッカーの日本代表。サッカー守りも授与していただけます。

東大路通に面している側から見たところ。ふらりと入れるのに、入ってしまうとすっぽりと静かな空間に包まれる。

外はこんなに忙しいのに。

今は緑が美しい桜の木。毎年、この桜がだんだん満開になっていく様子を眺めるのが楽しみだった。

次の春、久しぶりにこの桜を見に来よう。そしてまた、イザナミノミコトに会いに来よう。イザナミノミコトに、これからのわたしの生き様も見ていてほしい。

施設情報

熊野神社

神社

熊野神社
  • 京都市左京区聖護院山王町43番地
  • 075-771-4054
  • 9:00~17:00

この記事を書いた人

寒竹泉美

小説家・医学博士

寒竹泉美

岡山生まれ、広島育ち。京都に住んで15年が過ぎました。ペット可の古い貸家で白黒猫のモーちゃんと夫と、マイペースに暮らしています。

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