神様に会いにいく

【連載エッセイ】 Vol.11 イワナガヒメノミコト(貴船神社)


というわけで、前回の続きです。本殿をあとにして奥宮へ向かいます。

貴船は夏は川床料理、冬は牡丹鍋が楽しめる有名な料亭街でもあります。が、目もくれず奥宮を目指すわたくし。

いつかここで川床料理食べたいなあ・・・と考えていたら急激にお腹が空きました。

腹が減っては取材はできぬ。貴船には料亭だけでなく、お蕎麦屋さんやカフェもあります。二回の窓から川を眺めながら食べるお蕎麦は格別。でんべさん。

さて、奥宮めざして歩いていきます。上り坂ですが道路の端を歩いていくので、山道みたいに足場に気をつける必要もない。途中には高原特有のめずらしい花々が咲いている。

あちこちで咲いていた貴船菊。秋明菊の名でも知られる。菊という名前がついていますが、アネモネの仲間なのだそうです。

奥宮に向かう途中、結社(ゆいのやしろ)が見えてきますが、こちらは後で紹介したいので通り過ぎます。

相生の杉。同じ根から生えた2本の杉。樹齢千年と伝えられているそうです。

うーん、大きい。

千年生きるってどんな感じなんだろう。もちろん植物には動物ほど激しい内部の活動がないから、時間に対する感覚が違うのだろうけれど。

百年も生きられない体のわたしたちは、代わりに、言葉と動作で脈々と伝統や物語をつないでいくことができる。百年後、個人としてのわたしは滅びているけれど、人間というものを形作る細胞のひとつとして何かをつないでいけるだろうか。千年後の人間の一部になっているだろうか。

この先が奥宮です。

ここまで来ると、気温も空気も変わってくる。さらに厳粛な雰囲気。

奥宮は広々とした空間の奥にぽつんと拝殿と本殿がある。

外からは見えないですが、本殿の真下には「龍穴」があるそうです。いや、見えなくていいんです。見ると龍神様がお怒りになられるので。

社の修理中も龍穴を見てしまわないように、社を横の地に移すと同時に覆いをかぶせて、修理が終わるとまた覆いを取って社を上に戻すのだそうです。

龍穴どころか、本殿も見えるか見えないかわからないもどかしい写真ですが、なんだか写真撮れなかったんですよ・・・。龍穴の話を聞いたからかな。見られたら怒る神様ならそっとしておこうと思いました。もちろんお参りしましたけれども。
いつも水の恵みをありがとうございます。

ここ奥宮のご祭神も本宮と同じタカオカミ神です。

あとはここに玉依姫命が大阪から川を遡ったときに乗っていた舟も祀られています。

奥宮から出ると、なんとなく、ぼんやりしてしまう。

ずっと聞いていた川のせせらぎが、また違って聞こえる。自然の恵みとか、緑がきれいとか、そんなことだけでは済まされない、自然の脅威。神様はときどきお怒りになったり祟ったりするのである。

奥宮から下っていくと、ちょうど本宮との中間地点に結社がある。ここに、わたしが会いたかったもう一柱の神様がいらっしゃる。

木々に囲まれたこぢんまりとした空間に、こぢんまりとした可愛らしい社。

この結社に祀られている神様は磐長姫命(イワナガヒメノミコト)。連載を読んでくれている方は覚えておられるでしょうか。vol.5で紹介したコノハナサクヤヒメノミコトとニニギノミコトの結婚エピソードに登場した、コノハナサクヤヒメのお姉様です。

ニニギはアマテラスの孫。天から降りてきて美しいコノハナサクヤヒメを見つけて結婚しようとしたが、コノハナサクヤヒメの父・大山祇(オオヤマツミ)神は姉のイワナガヒメも一緒にニニギに嫁がせた。だけど、ニニギはイワナガヒメが醜かったので、父のもとに返した。

コノハナサクヤヒメは繁栄の象徴、イワナガヒメは永遠の象徴。イワナガヒメを返したせいで、ニニギの子孫(つまり天皇)は花のように限りある寿命になってしまった。

知恵の実を食べたせいでエデンの園を追われて限りある寿命になってしまった旧約聖書のエピソードに似ているけれど、醜かったからなんて理由は何だかあんまりである。知恵を得た代わりにというのならまだしも、ニニギの面食いのせいで、人間は永遠の命を失ってしまったのである。

一方、返されたイワナガヒメは、そのことを恥じて、自分のようにつらい思いをする人が現れないように、この地に降り、縁結びの神様になったのだそうです。

なんて心の広い・・・できた神様だ・・・。

ここには縁結びのスポットとしていろいろな人が訪れるけれど、その発祥となったのは平安時代の歌人・和泉式部。心変わりした夫との復縁を貴船神社に祈願しにきて、かなったという逸話があるからだ。そのときに詠んだ歌が石碑に刻まれて、この結社に置かれている。

<物おもへば 沢の蛍も我が身より あくがれいづる 魂かとぞみる>

蛍が飛ぶような時間に訪れたのだろうか。電車も車もない平安時代に、恐らくずいぶん動きにくい格好で、女の脚で。

和泉式部の願いはかなってよかったと思うし、続々とお参りに来るカップルたちも幸せになってくれと思うけれど、何だかもやもやとする。こんな心の美しいイワナガヒメも幸せになってほしいじゃないですか。なんだか切ないよ。

イワナガヒメ様が穏やかな幸せな気持ちでいられますように、とお祈りする。いらぬお世話かもしれない。だって、自分の幸せより人の幸せを願う神様なのだもの。

さて、ニニギとコノハナサクヤヒメは結婚し、コノハナサクヤヒメは子を宿しました。

が、ニニギいわく「それは本当に俺の子か」

・・・!!!

衝撃の展開。

イワナガヒメ、ニニギノミコトと結婚しなくてよかったんじゃないでしょうか。男を見る目がなくて困っている人は、ぜひとも貴船神社の結社にお参りするといいと思います。そして素敵なご縁を結んでもらってください。

ちなみに、貴船口駅と本殿の間をバスに乗らずに歩いていくと、コノハナサクヤヒメの祀られている梅宮社をお参りできます。写真左の一段高くなっているところ。

ニニギに疑われたコノハヤサクヤヒメがどうしたかというと、それはまた別の記事で。 いや、ほんと、日本神話は面白い・・・。

施設情報

貴布禰総本宮 貴船神社(きふねじんじゃ)

神社

貴布禰総本宮 貴船神社(きふねじんじゃ)

この記事を書いた人

寒竹泉美

小説家・医学博士

寒竹泉美

岡山生まれ、広島育ち。京都に住んで15年が過ぎました。ペット可の古い貸家で白黒猫のモーちゃんと夫と、マイペースに暮らしています。

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