社寺さんぽ

【多禰寺】歴史の息吹を堪能できる京都北部最古のお寺


京都は京都市街のみに非ず……そんな厳かなる主張と共に、京都北部を中心に、名刹古刹、古社大社のご案内を務めさせて頂きます、初めまして、矢口慧と申します。

さてはて。今日は秋の涼やかなる気候に誘われまして、大浦半島は多禰山の中腹に座します、西国薬師第三十番霊場醫王山多禰寺にお伺いさせて頂きました。

縁起は飛鳥時代に遡る、千三百年の歴史を誇る、京都北部最古のお寺。
第三十一代用明天皇勅願により、聖徳太子の異母弟、麻呂子親王が世の平安を祈願して創建され、瑠璃光薬師如来をご本尊に、長く下界を見守り続けて来た古刹です。

東舞鶴駅より車で三十分程、多禰山の中腹までの峠道をずんずんと進んで参りますと、ふっと視界が開けて遠く舞鶴湾を望めましたら到着です。

参拝の順番が示されておりますので、まずは山門へ。

この山門、鐘楼も兼ねている珍しい作りな上、この鐘、鳴らすことが出来ます。

冥加料をお納めして、お作法通りに一、二の、三!

三千世界まで鳴り響けといわんばかりに荘厳なる音に驚きつつ、余韻の間に心願を念じる、と……ん? 長いな? 結構響くな? まだかな? まだ行くか? どこまで余韻だ? 既に耳鳴りか? と、響きがかなり長いので途中、煩悩が混じってしまったのはまぁよしとしましょう。

見下ろす参道は、今も麓まで続いているそうですが、今は熊がね……とのことなので、下ってみるのは断念して、いざお参りに。

山門からまっすぐに見える本殿。

手前、左手に桃山時代の石庭。

金魚が優雅に泳いでおります弁天池を右手に眺めつつ。

石段を上がりましたら、正面に本殿、手前左側に寺務所・宝物殿とが配置されておりまして、ちょうど植木に水遣りをなさっていたご住職にご挨拶。
朝から夕まで、寺務所に人が控えておりますので、声をかけて頂ければご案内出来ます、とのお言葉に甘えて早速本殿へ。

本殿前に真っすぐに立ちますと、龍の彫刻を中心として、獅子が左右その奥に象が彫られたに配されております。

この獅子、参拝する者と目が合うように作られているそうで、見上げましたら確かに視線がばっちり合います。目力強いです。

左手の戸口から本殿内部へお邪魔しますと、ご本尊が安置された厨子を中心に沢山の仏像が納められております。
厨子の前には麻呂子親王のご位牌。大江山の鬼退治は三つほど由来となる伝説があるそうですが、そのうちの一つが麻呂子親王による地方平定ではないかと言われているそうです。
ご本尊は秘仏の為、特別な法要が行われる時でないと、ご尊顔を拝する機会はないそうですが、その為に保存状態がとてもよく、調査に見えられた先生が関心しておられたそう。因みにお写真が厨子の横に置かれており、ふっくらと優しいお姿を拝見することが出来ます。

ちなみに多禰寺の薬師瑠璃光如来は、目や耳のご利益に預かることができるとのこと。
ご利益に預かられた方は、穴の開いた石やアワビの殻をお礼にお納めする習慣があるそうでして、由来は不明ですが、願いが通じる、穴が開いたもの通るという意味合いでしょうかと、との言。

そのご本尊をお守りして、左端に毘沙門天、右端の不動明王。間に四体ずつ神将像(かつては十二神将がいらっしゃったそうなのですが、盗難により現存するのは八体のみ)とする配置は、天台宗の奉りかたなんですよとご住職。
今は京都東寺を本山とする真言宗のお寺ですが、宗派の別が厳しくなかった当時からの配置を維持されているそうです。
おおよそ二百年前の建造となる本殿、ご本尊向かって右側の柱、「はぎの柱」のみは創建当時からあるもので、触ると悪いものが落ちる、良いことがあるなどのご利益があるとのこと。遠慮なくなでなでさせて頂きました。

そして本殿を出るときに今度は象と目があいますよ、と。

確かに象、めっちゃこっち見てます。

続いて別棟となります宝物殿。

中に入った途端に、おぉぅ、と思わず声がでました。
左右からねめつける、阿吽両像の迫力たるや! 様々な収蔵品の中でもやはり中央に座しますは大日如来像。
こちらは真言宗の配置、大日如来を中心に、弘法大使を左、不動明王を右にされるそうです。

鎌倉時代作の大日如来像。

同時代の不動明王像。

奈良時代、行基の作と伝えられる観世音菩薩像は、風化してなお、穏やかなお顔立ち。

平安時代より伝わる普賢菩薩像、瑠璃光薬師如来の脇侍として描かれることが多いため、単体での仏像は珍しく、独尊としては日本最古の仏像だそう。
女人は往生できないとされた当時の仏教で、法華経を信仰すれば救われるとの教えに、貴族の女性の間で厚く信仰されたそうです。

日本第三位の大きさを誇る鎌倉時代、慶派作の阿吽像。作者は不明ですが、定慶の作ではないかと推測されています。迫力です。

つい、こんなポーズで記念写真。

お、足元にこんなかわいい狛犬を発見。

獅子もいますね。

この付近特有のデザインで、近隣の神社のものだそうです。
盗難を避けるために宝物殿に納められているとのことで、力強い力士像に守られて安心しているかのよう。

力士像の背後には大般若経の納められた箱。

他にも掛け軸や仏具、小さな仏像、江戸時代の藩主の文と様々な展示物があります。

……

歴史の息吹を堪能させて頂き、改めまして、本殿にお参りを。

鐘を鳴らし、戦の後に平和を祈念した親王の願いに想いを馳せながら、

お灯明とお線香をお供えさせていただきます。

そして一念を込めて、御仏籤を頂戴してこの手に運命をば掴み取らん……じゃん!

……うん、よくお解りで。人生、迷いに迷っておりますとも。そうですとも。

このみくじは結んで帰らせて頂こう、と結ぼうとしたらば、ん? これは?
先ほどお伺いしたお話にあった、石やアワビをここにお納めするようです。

なるほど、満願石。これだけの方がご利益に預かっているのか、と少し悪い右目を撫でて、どうぞあやかれますようにと願いつつ、石段を下ります。

再度本殿を振り返りましたら、差し上げたお灯明がゆらりゆらりと見送っておりました。

少し時期が遅かった為、花の季節は過ぎておりましたが、今は萩の寺として淡い緑と静けさに包まれた多禰寺。
平安時代には七堂伽藍を有して栄えた古刹は、後の世の戦乱に威を失いはしたものの、ひっそりと続く祈りに息づいている様こそが、古の祈りの具現であるかのようでした。

編集部注
今回、事前に「こすまぐ」の趣旨を説明させて頂いた上で、
ご住職のご厚意により、特別に宝物殿を撮影させていただきました。
通常は、撮影禁止ですのでご注意ください。

施設情報

多禰寺(たねじ)

寺院

多禰寺(たねじ)
  • 京都府舞鶴市多祢寺346
  • 0773-68-0026
  • 9:00~17:00
  • 宝物殿拝観:500円

この記事を書いた人

矢口慧

ライター

矢口慧

生まれてこの方京都に暮らして久しい小説屋。筆の向くまま気の向くまま、興味があれば何でも書きます。

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