神様に会いにいく

【連載エッセイ】 Vol.10 水の神 タカオカミ神(貴船神社)


突然ですが、電車に乗ります。

この叡山電車はその名の示すとおり、京都の北東にある比叡山方面に向かう電車。
途中までは街中を走るけれど、だんだん山の中に入っていく。約30分後、「貴船口駅」で降りたらそこは川のせせらぎと緑に包まれる別世界。
ちょっとした小旅行気分になれるのです。

毎日たくさんの観光客が京都にやってくる。京都という町は、きっと、少し特別なことが起こりそうな、ちょっとだけ自分が変われそうな場所として彼らの目に映し出されているだろう。かつて、わたしもよそから来た観光客だったから、よくわかる。

京都に住んで10年以上経つけれど、わたしはいつでもあのときの気持ちに戻ることができる。30分電車に揺られるだけで旅行者になれる。それは京都で生まれ育っていない、よそものだからこそ持てる、ちょっとした特権なんじゃないかと思っている。

今回訪れるのは貴船神社。叡山電車「貴船口駅」から降りてバスで5分。歩けば30分。初めて来たときは、バスを待つのがじれったくて歩いてしまったけれど、今回は迷わずバスを選ぶ。先は長い。体力温存。

バスを降りると貴船神社の本宮の鳥居が見える。そして鳥居をくぐると赤灯篭の並ぶ石段。神社の赤って、しみじみ美しいと感じてしまう。

取材した日はまだ紅葉していなかったけれど、紅葉するとまた光景が一変する。雪の日や新緑の時期も美しいそうです。貴船神社さんのツイッターにはリアルタイムで貴船の美しい様子がアップされていますが、やっぱり自分の目で見たい。また来なければ

境内に入って本殿を下から見上げたところ。

この取材の後、別の用事で日曜日に訪れたときは、ここで結婚式が行われていた。木漏れ日がきらきらと輝く中、赤い和傘を差しかけられた白無垢の花嫁と花婿が歩いていく。彼らを祝福するように金色の落ち葉がはらはらと舞って、それが太陽の光を反射してきらめき、ため息が出るほど美しかった。

さて、写真右下の馬の像に注目です。

平安時代、雨乞いの祈願には黒馬を、雨止みの祈願には白馬をこの神社に奉納していたとか。それがやがて本物の馬じゃなくて絵になった。というわけで、貴船神社は絵馬発祥の地として伝わっています。

モミジの絵馬(?)発見。可愛い。新緑の季節には緑のモミジになるそうです。

本殿は平日でもたくさんの人が訪れていました。お参りして、人が少ない隙にぱしゃり。

本殿に祀られている貴船神社の主祭神は高龗神。高龗と書いてタカオカミと読みます。水の神様。龍神様。

タカオカミはvol.9で登場した火の神・カグツチがイザナギに斬り殺されたとき、カグツチの血から生まれたと『古事記』に記されている神様です。

火の神の血から水の神が生まれるなんて、なんだか不思議で、どうしてそんな物語を作ったのだろうと気になって、今回はタカオカミ神に会いにきたのです。もちろん、会いにきたからといって何かがわかるわけではないけれど。

でも、カグツチノミコトとタカオカミ神をお参りしてどうだったときかれたら、どちらも静かな神様だったと答えると思う。それは、イザナミやアマテラスやスサノオと違って、火の神や水の神は『記紀』に性格や行動が描かれていないからだ。

火も水も、あるときは恐怖を、あるときは恵みをもたらす存在だ。身近なのにままならない。暴れられたら命取りだ。それこそ神頼みするしかない。物語が生まれる前から、人々は火の神や水の神を畏れ敬ってきただろう。それなのに、その神に性格やエピソードを与えなかったのはなぜだろう。月神・ツキヨミノミコトのとき (vol.6)と同じ疑問が浮かんでしまう。

怒ったり悲しんだり誰かを好きになったりする人間くさい神々と違って、火や水の神は物語の中でさえ、くっきりと、人間とは違うものとして扱われている。子孫の子孫をたどっていくと初代天皇につながっていくアマテラス大神とは違う扱いなのだ。それが何を意味するのか。うーむ、『古事記』って、知れば知るほど面白い。

今まで何度か貴船神社にお参りに来ていたけれど、こんなふうに祀られている神様のエピソードや背景を考えたことはなかった。水に浮かべると文字が浮き出る水みくじで一喜一憂し、縁結びのご利益がある結社(次回紹介)にお参りして、緑が気持ちいい~なんてはしゃいで帰ってきただけだった。でも、何も知らなくても、ここに水の神様がいらっしゃるというのは、理屈抜きに納得していた。社を囲む山肌からはあちこちから水が流れ落ちているし、川のせせらぎがずっと聞こえている。どこか人の世ではない澄み切った厳粛な空気も漂っている。

気分一新。まさに小旅行気分になれる場所なのです。

ところで、貴船神社は玉依姫命(タマヨリヒメノミコト。またいずれゆっくり紹介します)が大阪湾から水源地を求めて舟で川を遡っていって(!)たどり着いたところに祠を建てて水の神を祀ったのが始まりなのだそうです。

水源地ということは、そう、ここではなく、もっと奥に本殿があったのです。今はここに移されて、もともとあった場所は奥宮と呼ばれています。

というわけで、いざ奥宮へ。次回へ続きます。

施設情報

貴布禰総本宮 貴船神社(きふねじんじゃ)

神社

貴布禰総本宮 貴船神社(きふねじんじゃ)

この記事を書いた人

寒竹泉美

小説家・医学博士

寒竹泉美

岡山生まれ、広島育ち。京都に住んで15年が過ぎました。ペット可の古い貸家で白黒猫のモーちゃんと夫と、マイペースに暮らしています。

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