神様に会いにいく

【連載エッセイ】 Vol.12 オオヤマツミ神(梅宮大社)


突然ですが、わたくし、香港旅行に行ってきました。

香港の人々は、見た目は日本人とそんなに違わないけれど、言葉や文化や食生活がいろいろ違う。でも、どこの国にも神様がいて、大切に祀ってお願い事をしたりするのは一緒だなと思った。

香港の寺院では長いお線香を大量に焚いてお供えしていた。
原色なのに悪趣味ではない、不思議な配色。日本の神社とよく似た狛犬がどこの寺院にもいた。不思議に思って調べたら、狛犬はそもそもインドで生まれて中国を経由して日本に伝来してきたみたい。

言葉は全く通じないのに、漢字で意味がなんとなく分かる。いまここにいる自分のルーツに想いを馳せた。国境なんてただの人間が引いた線にすぎないと思った。

そして、お酒を飲んだら楽しくなるのも万国共通。夜はあちこちで宴会していた。わたしたちも旅行の最終夜はお酒を飲んで打ち上げした。ビールをお茶碗でいただきました。

神さまを祀ることも、お酒をつくって飲むことも、始まりはとても古い。そして世界中の人々がやっている。土地によってやり方は違うけれども、神に祈って酒を飲むことは同じ。人間って面白い。知れば知るほど、人間って、お酒が好きなんだなあと思う。そして、人間には神さまが必要なんだなあって思う。

さて、今回会いにいった神様は、神話の中で、最初にお酒を造ったと記されている「大山祇(オオヤマツミ)神」です。オオヤマツミ神はイザナミとイザナギの息子で、山と海をつかさどる神なのだけれども、お酒を造ったことから酒造の神としても信仰されています。

この梅宮(うめのみや)大社は、特にオオヤマツミ神の酒造の神としての神徳を祀っているお酒の神社なのでした。

赤い鳥居をくぐると、酒樽のならんだ門が。

門から入って振り返ったところ。木の枝ぶりが美しい。

本殿。狛犬が小さくて何だか可愛い。

本殿には、オオヤマツミ神と、その娘・コノハナサクヤヒメ。そしてコノハナサクヤヒメの夫であるニニギノミコト。彼らの子供・ヒコホホデミノミコトが祀られています。

そう、オオヤマツミはコノハナサクヤヒメとvol.11で紹介したイワナガヒメのお父様なのです。

ニニギノミコトはコノハナサクヤヒメと結婚したいと言っているのに、オオヤマツミは姉のイワナガヒメも一緒に嫁入りさせたわけです。最初、そのエピソードを知ったとき、なんて無茶な・・・と思いました。案の定、イワナガヒメは返されてしまうのです。

そりゃそうだよ。

イワナガヒメが傷ついたのはニニギノミコトのせいでもあるけれど、もとをただせばこのお父ちゃんのせいじゃないですか。でもまあ、オオヤマツミにはちゃんと思惑があって、イワナガヒメも一緒に嫁げば、ニニギノミコトが永遠の命を得るから、良かれと思ってしたわけで・・・(でもそれ、先に言ってあげて)。

合理的というか自由というか豪快というか。
そんなルール無用の神様だからこそ、お酒を造ることができたんじゃないかと思う。しかも、お酒を造った理由は、コノハナサクヤヒメの出産が嬉しかったからなんだそうで。なんかもう、やることなすこと憎めないというか。いとおしいというか。
でもこんなお父ちゃんだったら、娘は大変だろうなあ。

梅宮大社は、酒造関係のご利益以外にも、コノハナサクヤヒメとニニギノミコトのカップルにちなんで、子授け・安産・縁結びの神社としても信仰されています。

梅宮大社には、神社で飼われている猫がいっぱいいた。人懐っこくてなでさせてくれる。ひざに乗られてめろめろになっている人もいた。

猫と神社は最強の組み合わせです。癒される。

こぢんまりとした境内の北側には広い神苑がある。入苑料は鯉のエサ付き(期間限定)。

エサの袋を持って庭に入ると、池のほとりに梅の木が並んでいた。梅の季節はきれいだろうな。

今は池と紅葉がきれいだった。

鯉のエサはたっぷりあったので、とりあえず池にえいっえいっと投げてみる。とたんに色とりどりの鯉が集まって来て、水音をたてる。

こ、これ、楽しいんですけれども・・・!

手に持っているのが、鯉のエサ。たっぷりすぎる。いつまで経っても終わらないと思っていたけど、気がつけばなくなっていた。堪能した。

そういえば、子どものころ、生き物にエサをやるのが、好きだったなあ。近所の犬に給食の残りもののパンをあげたり、ハトにパン屑あげたり、猫にちくわをあげたり。本当はそんなことをしたら駄目なんだけど、動物にエサをあげて、誰かが迷惑をこうむるなんて、子どもの頭では思いつきもしなかった。悪気はなかったのです。ごめんなさい。

今はもう大人だから野生動物にエサをあげたり、ひとのペットに勝手にごはんをあげたりしない。でも、生き物にエサをあげるのが好きという気持ちが消えたわけではない。

長年、我慢してきたうっぷんが晴らされました。なにせ、神社公認の鯉のエサですから。

エサを全部鯉にあげて手が空いたので、授けていただいたお神酒を記念撮影。

ほら、酒造の神様のお神酒だもの。みんな味を知りたいでしょう。みんなが知りたいことをレポートしてこそ、こすまぐライターですから。

このままきれいな庭を見ながら飲めたら最高ですが、ちゃんと家に持ち帰ってから飲みました。おつまみがいらない、単独で飲める。かすかに甘くて香りがよくてさわやかな酸味もあって、余韻もほどよく残って、なんかもう止まらない。おいしすぎる。そりゃそうです。京都の佐々木酒造さんの「聚楽第」ですから。そんな有名なお酒なら、わざわざ経費使ってレポートしなくてよかったんじゃないかというツッコミは受け付けません。ああ、おいしい。幸せ。

子どもの頃、お酒は不良や堕落の象徴だと思っていた。だから、わたしはずっと神社で授けられる「お神酒」の中身は水だと思っていた。お神酒は本当にお酒なのだと知ったときはびっくりした。

お酒を飲むと堕落するから飲酒を禁じている宗教もある。けれど、神道ではお酒は神さまに捧げる飲み物なのだ。神に捧げる聖なる飲み物だけど、度が過ぎると理性をなくしてしまう飲み物でもある。聖なる飲み物というのはちょっと違うのかもしれない。神道は、お酒飲みたいなら飲めばいいじゃない、という感じがする。だって、神話の中の神様たちは、やりたいようにやっているのだもの。彼らは決まりやルールや常識に縛られない。しがらみやルールに縛られて、やりたいようにやれない今のわたしたちとは大違いだ。

お酒を飲んだときだけ、わたしたちは、自由という意味で、少しだけ神様に近づけるのかもしれない。なんてね。いやあ、おいしいなあ。こんな素敵な飲み物を造り出してくれて、オオヤマツミ様、ありがとうございました。ここを読んでいる酒好きさんたちは、オオヤマツミ神にお礼を言いにいくといいと思います。

施設情報

梅宮大社

神社

梅宮大社

この記事を書いた人

寒竹泉美

小説家・医学博士

寒竹泉美

岡山生まれ、広島育ち。京都に住んで15年が過ぎました。ペット可の古い貸家で白黒猫のモーちゃんと夫と、マイペースに暮らしています。

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